名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(く)28号 決定 1981年1月08日
少年 T・Y子(昭三九・一一・二二生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は附添人Y・M子名義の抗告申立書に記載してあるとおりであるからここにこれを引用するが、その趣旨は少年の所為、特に少年が原家庭裁判所の試験観察決定を受け、少年鑑別所から出所した後原決定までの期間が極めて短いことと、右期間内の少年の非行的所為がしかく悪質であるともいえないことに徴すれば原決定の処分は著しく不当であるから、その是正を求める、というのである。
所論にかんがみ、記録を調査し、当裁判所の事実取調の結果をも参酌して検討するに、関係資料により認められる少年の年令、性格、生育歴、職歴、家庭環境、交際している友人らの性行をはじめ、本件各非行の動機、態様、罪質、特に少年は実母Y・M子の夫Y・Sと昭和五二年八月二六日養子縁組したものの、厳格で真面目な同人を強く嫌いその監督には敢て服さず、昭和五五年五月二一日には遂に協議離縁して養親子関係を解消するに至り、少年と夫Y・Sとの間にあつて板挾となり苦しむ実母Y・M子に対しても夫Y・Sにばかり気兼ねして少年のことは無視すると感じてその保護をも嫌い、喫茶店女給等時間的自由が多くて局囲男性から持て映やされるような職種の仕事を好み、生活態度が漸く弛緩し、放縦に流れ、同種性行の男女と交友するうち本件各非行に及んだものであつて、そのうち占有離脱物横領保護事件により昭和五五年一〇月二日富山少年鑑別所に送致され、同鑑別所から中等少年院に送致し一般短期処遇による矯正教育を実施するのが相当であるとの鑑別結果通知書が、また原家庭裁判所調査官からは少年の資質、保護環境等に徴し、少年を中等少年院に送致するのがむしろ相当であるけれども、少年が従来一度も保護処分決定を受けた経験のない事情と保護観察決定による在宅保護の措置が少年にとつて全く効果をもたないものとも断ぜられない点から今回の処分は保護観察決定をするのが至当であるとの意見が原家庭裁判所にそれぞれ提出され、原家庭裁判所はこれらを総合勘案した結果昭和五五年一〇月二四日判断の慎重を期するため、なお終局処分は保留して少年を原家庭裁判所調査官の観察に付する旨の試験観察決定をし、その際窃盗やシンナー吸引行為を慎むべきこと、無断家出、外泊、無断転職、退職(当時の少年の職業は喫茶店ウエイトレス)を禁じ、更に男性の友人や悪友と交際しないことを条件づけたところ、少年は富山少年鑑別所出所後一旦は実母方に帰つたものの、その当日から実母の許可を得ず外泊を重ねて、実母、及びその夫Y・Sの保護、監督には全く服さず、男性をも含む数名の友人と飲酒したりし、かくては実母Y・M子も、少年に対する愛情と保護の熱意は有するものの、現実にはどのようにして有効な保護の手段を講ずべきかについての方途を全く失い、ここに右出所後の少年の行動を原家庭裁判所に詳細に通報し、原家庭裁判所もやむを得ず原決定をして少年を中等少年院に送致した経緯と事情、少年の実母Y・M子及びY・Sが原決定後前記所論のような事情もあるのではないかと考え直し、原決定が著しく不当であるとして、実母Y・M子において附添人となり、本件抗告を申し立てはしたものの、更に一時の感情にとらわれず遠謀してみれば、原決定が直ちに取り消されて、少年が表記住居である実母方に立ち帰つたとしても、従前からの保護の努力がすべて徒労に帰した経験上少年に対し果たして有効な保護の手段を講ずることができるかどうかについて全く自信がもてず、むしろ少年院収容中の矯正教育の結果、多少とも更生意欲を抱くに至つた後の少年を引き取り、その基礎に立つて少年を保護する方がむしろ賢明ではないかと考えている事情、並びに原決定に基づき少年が交野少年院に収容された後、当初の少年の予想に反し実母Y・M子が面会のため訪問をしてくれ、更にしばしば信書により少年を激励してくれることに感銘を受け、従前の行動が我侭勝手であつたこと、実母及びその夫の立場のことも考えてみねばならないこと、従来の不良な交友関係を絶止して堅実な生活をする努力が必要なことを自覚しはじめ、素直に収容教育に順応している事情等と総合検討してみれば、原決定は相当であつて、これが著しく不当であつたとは到底認められない。本件抗告は理由がない。
もつとも少年はその不幸な家庭環境にもかかわらず中学校卒業時までは特段の非行的性格を示さず、従つてその非行性は現在においては等関視すべからざる程度に達したとはいえ、その人格の央部にまで敗入して固定化したものとは考えられないこと、少年の実母及びその夫は従前有効な保護の方途をとれずいわば手を焼いた状態であつたとはいえ、少年保護の熱意はいまだ捨ててはいないこと、前認定のとおり少年自身更生の意欲と自覚をもち始めたこと、本件非行実行の主な原因となつたと考えられる不良友人中には暴力団関係者等少年の側で絶止することを希求しても執拗にこれを拒否するような悪質な者は認められず、少年が素直に収容矯正教育に順応している事情等を総合勘案すれば、少年に対する矯正教育は一般短期処遇をもつてすることが望ましいと考える。
以上の理由により少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 辻下文雄 裁判官 石川哲男 阿部文洋)
抗告申立書<省略>